東京書作展選抜作家展 2014 【出品作品】 「雲揺らぎ」 

東京書作展選抜作家展 2014 出品作品です。  

「雲揺らぎ」 ー 題材は、中国初唐の詩人、宋之問 (そうしもん) の七言古詩です。

「至瑞州驛見杜五審言・沈三佺期・閻五朝隱・王二無兢題壁慨然成詠」 

このとても長い題名の詩の解説は下に載せますが、ごく簡単に言うと、政変のために仲間とバラバラに流罪にあった作者が、途中の宿の壁にその仲間たちの詩を見つけ、自分もそれに続いて、憂いの気持ちを詠んだものです。 「雲揺らぎ」 はその詩の一節

 「 雲揺らぎ 雨散じ 各々翻飛し 海闊(ひろ)く 天長うして 音信稀なり 」  

からとりました。 そしてこの作品は、もうすぐ3年となる 3.11 東日本大震災の被災者の方々に寄せるものとして、書きました。

Shorinは毎年一度、ささやかな形ではありますが、被災者支援のボランティア活動に参加させて頂いています。 

そのなかで、帰るべき場所を失いあるいは奪われて、いつになったらもとの平和な故郷での暮らしに戻れるのだろう、という不安を抱きながら、それでもそれぞれの今をしっかりと生きる人達のことを知りました。 

傷ついた被災地に残って、あるいは避難して移った今の在所で、おそらくこの詩に詠まれたような不安と同じ気持ちをもって、いまも日々、空を眺めておられるのではないかと、またその心の傷はおそらく、経験ない者の想像は及ばない深さとお察ししています。 

復興への道は、誰の目にもとても長く険しく見え、その困難の程を考えるとき、憂いを感じずにはいられません。 

それでもわたしは、被災された人たちのことを決して忘れておらず、その悲しみをたとえ少しでも共にし、これからも長く心を寄せ、自らに出来る事を続けてまいりたいと考えています。 今回の作品は、そのことを表現したく、書いたものです。 



東京が大雪に埋まった2月15日に始まったこの書道展も、無事に会期終了いたしました。 今回はこれまでになく多くの皆様が会場にお運びくださり、作品をご覧頂きました。 (なかには私にはナイショでいらして下さっていた方も。。。あとで知りました! (^^)/ ) 

足元の大変悪いなか、はるばる上野までお越し下さった皆様、本当にありがとうございました。 また、難しい隷書の大作に取り組むShorinを、激励しつつ丁寧にご指導頂きました、書美院 内野七色 先生 と先輩後輩諸氏、そして本展に関わる関係者のすべてのみなさまに、心から深く御礼申し上げます。 

今後とも、よりよいお作品を見て頂けるよう、精進を重ねる所存です。 ご指導、ご鞭撻の程、どうぞよろしくお願い申し上げます。

松凛


 ※ 以下、作品解説です。


「至瑞州驛見杜五審言・沈三佺期・閻五朝隱・王二無兢題壁慨然成詠」 宋之問 
 
日本語にすると、「瑞州驛(たんしゅうえき)に至り、杜五審言(とごしんげん)・沈三佺期(しんさんぜんき)・閻五朝隱(えんごちょういん)・王二無兢(おうにぶきょう)が題壁(だいへき)をみて、慨然(がいぜん)として詠(えい)を成す」 

となるのですが。。。。やっぱりよくわからないですね。 (笑) 

タイトルの中にある、杜審言・沈佺期・閻朝隱・王無兢 というのはすべて、作者宋之問と同時期の詩人の名前です。 宋之問を含めこの方たちは揃って則天武后の臣下であったために、則天武后の失脚後それぞれバラバラに流罪となったのですが、ある宿屋に作者の宋之問が泊まったおりに、その壁に前述の四名の詩を見つけ、嘆き憂いつつ自分もあとに続いて読んだ詩である、ということです。 



逐臣北地承厳譴   逐臣(ちくしん) 北地(ほくち)に厳譴(げんけん)を承(う)け
謂到南中毎相見   謂(おも)へらく  南中(なんちゅう)に到って毎(つね)に相見んと
豈意南中岐路多   豈(あに)意(おも)わんや  南中(なんちゅう)には 岐路(きろ)多く 
千山万水分郷県   千山万水(せんさんばんすい) 郷県(きょうけん)を分かたんとは
雲揺雨散各翻飛   雲揺らぎ 雨散じ 各々(おのおの)翻飛(ほんぴ)し
海闊天長音信稀   海闊(ひろ)く 天長うして音信(おんしん)稀なり
処処山川同瘴癘   処処(しょしょ)の山川(さんせん)は  同(みな)瘴癘(しょうれい)
自憐能得幾人帰   自ら憐れむ  能(よ)く幾人(いくにん)か帰るを得ん

 
われら追放の臣下は 北の都で厳しい裁きを受けたものの
南へ行けば  いつでも会えるものと思っていた
しかし思いがけないことに 南方は分かれ道が多く
無数の山川が 村や町を隔てているではないか
雲が絶えず流れ 雨がばらばらと降り散って
海は広く 天は果てしなく遠く 便りもめったに届かない
至るところ山川は 毒気が立ちこめ
いったい幾人が  無事に都へ帰れるのだろう


書体は 「隷書」 という書体を使っています。 

上段に大きく 「雲揺」 下に全文を細く書いていますが、ここでは、字の大きさも間隔も、はじめ大きく後に行くほど少しずつ小さく書いています。 典型的な隷書作品のように、きちんと測ったかのように目星をつけて、詩のリズムと字数のとおりに整列させて書くこともできるのですが、しませんでした。 

すこし自由で、自然なクオリティを、加えたかったのです。

「絶えず流れる雲」 その揺れる表情と似ている、と感じて頂れば、とてもうれしく思います。
 
Shorin