東京書作展選抜作家展 2015 【出品作品】  「孫子 謀略編」

東京書作展選抜作家展 2015 出品作品 「孫子 謀略編」 です。

今回は何を書こうか、題材にとても困りました。 いろいろと考えて結局一番書きたいものを書こう、ということになり、今回は孫子の兵法にチャレンジしました。 

おそらくその中でも最も有名な部分のひとつ、「国を全うするを上と為し、国を破るは之に次ぐ」の部分です。※

孫子の書の存在を教科書で習ったときには、兵法というものは、当時の戦争をいかに勝ち抜くか、その戦略と戦術のセオリーをまとめたものだと捉えていました。 要するに "テクニックの解説書" のようなものかしら、と思っていたのです。 

その後、機会があって実際に少しページを開いてみて、確かに技術的な視点からの数多くの鉄則もその理由の説明とともに明確に記されているのですが、その全てを裏打ちするものが、戦争というものが国家と人民にとって、いかに深刻な危機であるか、という、確固たる考えであることを学びました。 

そしてその中で、「国を全うするを上と為し、国を破るは之に次ぐ」(敵国を傷つけずにそのままで降伏させるのが上策で、戦って屈服させるのはそれに劣る)「百戦百勝は善の善なるものに非ず」  (百回戦って百回勝つことが最高、というものではない) と述べています。  国を、一軍でも、旅団でも、小隊でも、下級兵士でも、少しでも戦わずに降伏させよ、と戒めます。 

戦争のむごさを知っているからこそ、極力戦闘をせず、長引かせず、そして勝たねばならないと教え、そのための戦い方を伝えたものだと学びました。

昨今の酷い戦争や国内外の残忍な事件のニュースを見聞きし、また、戦後70年を迎える今年はじめの作品展に寄せて、この言葉を書く事に、なにか自分自身の中に意味があるかもしれないと思い選んだものです。  



私自身は、もちろん戦争には絶対反対ですが、しかしそれでもやはり、同胞を守り、国の主権と、その人々の自由と尊厳を守るために、どうしても戦わなければならないこともあるだろう、と思っています。 

ただ、世界中で繰り広げられている戦争が少しでも早く終結し、少しでも人々が傷つかない方法で紛争解決への道が開け、世界が平和に少しでも近づくことを、心から祈ります。 そのために平和の恩恵に預かっている者は、せめてひとりひとりが常に平和を志向し、問題の解決にむけた努力になにかしら貢献することが大事だと考えます。


今回のお作品も、師匠である 書美院 内野七色 先生のご指導のもと、製作いたしました。 また、これまでにない大きな紙 (縦3メートル、横90センチ) に奮闘するShorinを、書美院の諸兄には大いに激励頂きました。 どうにかこうにか完成させることができましたのも、ひとえにみなさまのお陰、心から御礼申し上げます。 

また、会場にお運びいただき、見てくださった多くのみなさま、本展関係者のみなさまに深く感謝申し上げます。 今後ともより良いお作品を見ていただけるよう、精進する所存です。 どうぞよろしくお願い申し上げます。  

松凛

※ 孫子 謀略編第三 について 
http://www.easttown.co.jp/S-03.pdf