東京書作展 選抜作家展2013  出品作品 「南楼望 - 盧僎」

先月開催された、東京書作展 選抜作家展2013 出品作品です。 

「登楼萬里春」(楼を登れば万里の春) と書いてあります。

題材は、盧僎の漢詩、「南楼望」(なんろうのぼう)です。 盧僎が国都長安を去って四川に下る際に、江畔の城楼に登り、そこから見渡す限りの春の景色が広がるのを眺め、また、行き交う旅人はみな言葉が違っており、異国にきたのだなあ、と感慨もひとしおである、という心境を歌った詩です。 

その二つのそれぞれの情感と、それらが交差する心の動きを表現できていればうれしく思います。

余談ながら、この作品は、忘れられないものになりそうです。 実は、この選抜作家展準備中の年末年始、帰省中の地元で、思いがけないアクシデントで腰に重傷を負い、立つこともままならぬ状態になりました。 数日後、どうにかこうにか東京の自宅に戻り、床で這うようにして書いたもののうちの一つが、こちらの作品です。 

けがの直後は、そのような状態で、果たして 「城楼に登る」 というこの詩を、ましてこの大きさに、書けるだろうか、という思いもよぎりました。 しかし、私という者は、もし自分の足で歩くことができなくても、どうしても登りたい城楼があるのなら、なにか他の手段を用いてきっと登ろうとするだろう、とも思われ、挑戦することにためらいはありませんでした。 

Web上にて大変失礼ながら、お忙しい中会場にお運び下さり、ご覧頂きました皆様、本当にありがとうございました。 今後も、よりよい作品を見て頂けるよう、精進してまいります。 

最後に、準備中に激励、サポート頂きました関係諸氏、そして、丁寧にご指導頂きました 書美院 内野 七色 先生 に心から厚く御礼申し上げます。 今後ともご指導の程、どうぞよろしくお願いいたします。

松凛  


「南楼望 - 盧僎」

去国三巴遠     国去って三巴遠く
登楼万里春     楼に登れば 万里の春
傷心江上客     心傷しむ 江上の客
不是故郷人     是れ故郷の人ならず

      
国を離れて  遠い三巴の地にやってきた
楼に登れば  見わたす限りの春景色
川岸に独り佇む私が 目にする人々は異郷の人
故郷を離れた淋しさが  胸一杯に満ちてくる